なぜなぜ管楽器(その3):数学的準備(微分のおさらい〜簡単な例を交えて)
なぜなぜ管楽器(その3):数学的準備(微分のおさらい〜簡単な例を交えて)
前回の記事で空気柱のモデルの説明を行いました。
saagarawq.hatenablog.com
これから音波の波動方程式を求めて行きたいですが、
その前におさらいとして微分演算の説明をしたいと思います。
高校1〜2年生で関数を習ったことがあれば分かる内容にしたいなと思います。
#数学的には難ありの説明になってしまうかもですがそこは今回目をつぶります
#綺麗に書くと直感的にわかりづらくなっちゃいますから
物理や数学の用語は馴染みのない方にはかなり魔術的に聞こえると思いますが、
ゆっくり順を追ってみていくとなんてことはないことが多いです。
少なくとも意味を捉えることは十分できると思います。
その先の細か〜い話やどういう性質があるなど研究の段階に入ると
かなり難しいですが、、、
微分の定義
と言いつついきなり微分演算の定義を書いちゃいます!
えい!
はい。こんな感じです。
式で書くとなんだか難しく感じますが
意味合いとしては関数のにおける
接線の傾き
を求める式です。
はで1文字の扱い出ることに注意します。
これは物理や数学の慣例で何かと何かの差分などを表したい時に使います。
はギリシア文字のデルタの大文字でラテンアルファベットのDは
デルタ起源としています。おそらく差分のdifferenceの頭文字ではないかと思います。
は極限と呼ばれるもので左の意味であれば
を0に持って行きなさいという意味です。
基本的には計算の最後に実行することが多く、
特に気にすることがない場合は矢印の左の変数を右の数字に置き換えることで終わってしまいます。
であればを0にすれば良いし
であればをaにすれば良いです。
であればをにします。
を使うときは分母に来るときなどでとします。
は任意の有限な数です。
もちろん結果がとなって発散するという結論になることもあります。
少し話が逸れましたが下の例でも最後に単にをに置き換えるだけになっています。
まず意味は置いておいて具体的に1つくらい求めてみましょう
の接線の傾きを求めてみましょう。
やっと求まりました。
例えばのにおける接線の方程式を求めてみよう。
まず傾きはさっきの計算から
でを通るので
接線の方程式は
となります。
実際描いてみるとこんな感じ。
ちゃんと接していますね。
なんとなく実感はしていただけたかなと思います。
ここから少し微分の意味について考えていこうと思います。
定義式の右辺は
下図のように2点を通る直線の
傾きを表しています。中学の時に習う
xの増加量分のyの増加量というやつです。
そしてこのをどんどん小さくしてやると
上図のようににおける接線の傾きに近づいて行きます。
#本当に近づくのかについては細かい議論がありますが、
#範囲を相当逸脱するので今回は紹介しません。
#関数が変な関数でない限り近づくと信じてください。
ここまでで微分のザーックリとした大体の説明は終わりました。
んん?
物理になんでこんなものが登場するの?
と思いますよね。
実は結構いろんなところに潜んでいます。
微分は接線の傾きと説明しましたが
物理的にはある指標に対する感度などの意味があります。
具体例としては位置と速度の関係です。
簡単に説明すると速度というのは時刻に対する位置の感度と言えるかもしれません。
速さが大きければそのぶん同じ時刻の間に移動する距離は大きくなります。
感度という見方もできなくはないです。ただ、時刻は今のところ人間がその縮尺などを自由に調節できないので実感しにくいですね。
もう少し具体的に考えます。
静かに手を離して物を落とすとその落ちる距離は時刻の2乗に比例していることが知られています。
仮に以下のように仮定します。
細かい話ですが、軸は上向きにとっているのでマイナスをつけています。
は位置を表しは時刻を表します。はなんらかの定数で
実験等で決めるものです。もちろん他の理論から求められたりもします。
今はこのようになっていると仮定して進みましょう。
2で割っていることはあまり深く考えないでください。笑
この時の速度を求めてみましょう。
ある時刻からまでの平均の速度は
となります。時刻差を0にする極限を取れば
時刻における瞬間の速度となりますよね。
なので以下のようになります。
微分の定義そのままですね。
ただ使う記号が変わっただけ。
さっきの計算例から速度はこの場合以下のようになります。
これで各時刻における速度が求まりまし。
実は速度をさらに時刻で微分すると
加速度が求まります。今までの類推から簡単にわかりますが、
加速度とは単位時間当たりに増加する速度を表します。
加速度は慣例でと書かれます。
上の具体例で計算すると加速度は以下のようになります。
ただの定数になってしまいました。
なんとなく置いた定数ですが、このは重力加速度と呼ばれ
地上における重力によって発生する加速度です。
真空中でふわふわの羽と重たい金属の玉を落とすとどちらが先に地上に到達するかという
問題がよく出ますが、理想的な条件下では一緒になるという結論になります。
実生活からは結構不思議な結果かもしれません。
実生活では空気の抵抗力などが働くためもう少し話が複雑になります。
実際雨が重力加速度に従って降って来たらみんな穴だらけじゃないかな
少し話が脱線しましたがこんな感じで結構というか
普通に物理には微分が登場します。
微分が登場するということは積分も登場するのですが、、、
楽器紹介:ホルンってどんな楽器?(その2)
移転しました。
なぜなぜ管楽器(その2):閉管と開管とは?モデルの説明
こんにちは
サーガラのホルン吹きです
この記事は管楽器の構造とその倍音特性を説明すべく書いているものです
動機については下記記事を参照ください
saagarawq.hatenablog.com
上記記事の説明の手始めとして
今日はまず気柱の共鳴の一番単純なモデルである
筒型の気柱について紹介したいと思います。
以下は私が別に紙に起こそうと思って書いているファイルから抜き出したものです。
適宜修正していますが、口調は異なるのでご了承ください。
===========================================================
はじめに
この記事では楽器の構造と音についての物理学的な観点からちゃんと説明をしたいと思う。普段なんとなくインターネットで見ている楽器に関する情報には
明らかに間違えているものや怪しいものをたくさん目にする。私がこの記事を書いた一番の同期はクラリネットは閉管楽器でそのほかは開管楽器だという説明を
みてとても不思議に思ったと同時に満足する説明が一切ない事である。この開管か閉管かは楽器の「音」にとって非常に重要な要素で同じ長さの楽器でも閉管と開管では
最低音に1オクターブも差が出るのである!そんな重要な事にも関わらずすぐに答えが出てこないだけでなく矛盾した説明にもどかしさを覚えた。
そんな身近なのに説明できない楽器の性質に関してここに答えを出したいと思う。閉管開管に関する説明は最終目標であり、本記事ではそこまで踏み込まない。
ここでは最も簡単な管楽器のモデルである円筒型の気柱共鳴について説明をした。次章以降でモデルとモデルから導かれる波動方程式及びその解法を説明する。
最後に導かれた解が意味することを考察する。
モデル
今回この記事では気柱の共鳴現象について紹介する。まずは共鳴現象を記述するためのモデルを導入する。
円筒型の容器に入った空気を頭に思い浮かべてもらいたい。思い浮かべた円筒は密封されていても良いし両端が開いていても良い。
また、片方だけ開いた円筒でも良い。密封または片方だけ開いた円筒であればチップスターの容器の蓋を閉じた状態または開けた状態である。
両方開いた円筒は陸上のリレー競技で用いるバトンの形状である。図 1を参照。
図1:気柱のモデル
普段空気について呼吸をする上でいつも実感しているかもしれないが、物質対象として実体を感じることは少ないかもしれない。
ここで注射器に封入した空気を思い浮かべて欲しい。空気の入った注射器のピストンを押し込もうとしても引き抜こうとしても
反発する力が働くことは想像に難くない。実際にやったことがある人も多いと思う。このように空気は元に戻ろうとする弾性を有する。
別の例でもう少し弾性について考える。四角く切り出したゼリーや寒天を上から指などでポンと叩くとプルプルと揺れる。
この揺れ方には2種類ある。ゼリーを上から叩くとゼリーの表面をプルプルと伝う波が発生する。
この表面を伝う波は波の進行方向に対して垂直に媒質が振動する。これは進行方向に対して横に揺れる波なので「横波」と呼ばれる。
ここで図2を見てもらいたい。この図を見るとゼリー内部を伝う波が描いてある。これは少しイメージすることが難しいかもしれない。
図2;ゼリーの振動
このゼリー内部を伝わる波は疎密波と呼ばれ、ゼリーの内部にぎゅっと圧縮された状態と伸長した状態ができる。
ゼリーは元に戻ろうとする性質があるのでお互いが元に戻ろうとするとまた別の場所で圧縮された状態と伸長した状態ができる。
このようなことが幾度となく繰り返されることでゼリー内部を疎密が伝搬する。この疎密波はその進行方向と同じ方向に媒質(ゼリーの内部)が
動く。波の進行方向に対して縦方向に振動するので「縦波」と呼ばれる。実はこの疎密波である「縦波」が音波と呼ばれる。
空気の場合は圧縮伸長に対して弾性を持つが、横にスライドさせる事に対しては弾性を持たない(元に戻ろうとする力は働かない)。そのため空気中を伝搬する波は縦波である。
実際のところ空気に粘性は存在するので横波が全くないかというとそれはわからない。液体中では横波の音波があることが知られている。
ただあったとしても空気の圧縮に対する弾性の方がはるかに強いので無視できるはずである。
さてここまで波について書いてきたが、ここで本題のモデルに戻ろう。先ほどの図1の円筒の中での空気の振動はどのようになるのか少し考える。
先ほどの議論で空気中を伝搬するのは縦波で空気の疎密が伝搬することを述べたが、これを十分細長い気柱で考えると図3のような振動になりそうだ。
1次元方向だけ考えれば良いかについては後で述べる事にする。
図3:細長い円筒中を伝搬する縦波
モデルについてここでまとめておく。
形状:円筒型
性質1:体積の圧縮伸長の操作に対し弾性(抵抗する力)を持つ
性質2:伝搬する波は縦波(疎密波)
実は図1の円筒の端が開いているか閉じているかによっても条件が大きく異なり、違った性質を示すことがあとでわかる。筒の端が開いている場合はその橋の部分で空気の圧力が
外側の大気と同じになることが要請される。一方で筒の端が閉じている場合はその端の部分の空気分子は振動できないため端に置いて粒子の速度が0になることを要請される。
こういったモデルの端(境界)での条件を「境界条件」と呼ぶ。境界条件を以下にまとめる。
開口端(筒の端が開いている時):筒の端に於いて外部の圧力と内部の圧力が等しい=音圧がゼロ※音圧とは音により発生した圧力で大気圧からの差分を示す
閉口端(筒の端が閉じている時):筒の端に於いて粒子速度がゼロ
===========================================================
ここまででブログタイトルの閉管と開管について書いていなかったので加えて説明をする。
閉管楽器は図1の中段の蓋を開けたチップスターの容器
開管楽器は図1の下段のバトンの形状に相当する
実際は円筒形でなかったりするため必ずしも図1のものをそう呼ぶわけではない
定義としては片閉口端のものが閉管
両開口端のものが開管と呼ばれる
管楽器の大半は閉管に属すらしい
#本当のところどうなのか結構きわどい気がします。。。
#でも例えば口の奥まで考えるとフルート以外は閉管楽器な気もしてきますね
もうちょっと先で面白い画像が登場します
ちょっとネタバレです