サーガラ木管五重奏団

サーガラ木管五重奏団の紹介や演奏会情報、その他楽団等で使えるお役立ち情報など、様々な情報を提供しています。木管五重奏はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンから構成され、どれも全く異なる音色のハーモニーが特徴です。是非演奏会にお越しください!

練習日記(2017/7/30)

ライヒャ Op. 91-4 練習

団長のファゴットです。

先週日曜7/30に、次回10月の演奏会に向けての合奏練習を行いました。

主にライヒャ Op91-4 の主題を音楽的に構築する練習をしました。

 

今回のライヒャはなかなか手強く、第一楽章だけでも15分を要する大作です。
それゆえ曲の構造を把握するのが難しい上に、循環形式的な旋律の使いまわしがなされたいたりと工夫が多く、これをいかに演奏に盛り込んで音楽性と構造を両立していくかというのが一つのテーマにもなります。


しかも、演奏事例や音源も極めて少なく、(本来あまりやるべき行為ではないと思いますが)人様の演奏を参考にするというのも難しい訳です。
こうして一から創り上げる作業は前途多難で途方に暮れる時もありますが、自分たちの頭で道筋を見つけたときの喜びは格別であります。

 

そしてもう一つのこの曲の難点、それはアクロバティックな転調です。

第一楽章の主調はト短調(フラットが二つ)なのですが、なんと途中でシャープ六つの嬰へ長調が出てくるのです。


決して自然な転調ではなくかなり強硬手段で移っているものの、その違和感が逆に古典派としては異例な雰囲気を醸し出しています。嬰へ長調はどの楽器でも音程を補正するために複雑な指遣いになり、その時に空いている音孔の配置も複雑になって柔らかい独特の音を演出します。これはライヒャが意図していた演奏効果なのでしょう。
ただ、当時使われていたナチュラルホルンで演奏するには大変な労力を要することになってしまいます。以前ホルン奏者が書いた記事

 

saagarawq.hatenablog.com

 

にある通り、ナチュラルホルンを右手による補正なしで吹いたときに出る、いわば標準的な音は自然倍音列であり、本来ト短調を吹きやすいようにセットされた間の長さでこれだけの転調をしてしまうと、ほとんどの音を右手で補正しなければいけなくなります。しかもライヒャは2度の線的なモティーフをホルンにも堂々と吹かせており、実にホルン奏者泣かせであります。

 

余談

余談ですが、オーケストラの場合は転調によってホルンが「鳴らない」調に飛んだ場合は、他の楽器で代用するなどの手段を取りました。
例えば、ベートーヴェンの第五交響曲(いわゆる「運命」)の第二主題へ移行する部分の印象的なホルンの動機がありますね。その楽譜がこちらです。

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ここではホルンは変ホ調の管を使っていますから、実音はB-B-B-Es-F-B になります。さて、記譜上はG-G-G-C-D-G で、上のリンクの楽譜と見比べると、全部自然倍音列上にあり、「しっかり鳴る」音がします。

 

では、再現部を見てますと、今度はハ長調に転調しており、実音でG-G-G-C-D-G が欲しいところです。これを変ホ管のホルンで吹くと、記譜上はE-E-E-A-H-E となり、E 以外は全部右手での補正が必要です。

 

そうするとA とH が曇った音になり、不格好ですよね。しかも、E-E-E-A は運命の主題の変化形であり、その強拍にあるA は特に重要な意味を持ちます。

ですからここではホルンが非常に使いづらい。そこでベートーヴェンがどうしたかというと、ファゴットにモチーフを充てました。

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これで、強拍の音も強調して演奏できることになりました。

 

しかし、これは楽器の代用が利くオーケストラだからこそできた技で、木管五重奏ではそこまで融通が利きません。それでもライヒャはオーケストラ並みの色彩感や音の厚み、そして楽想への柔軟性を求めたのでしょう。まさに木管五重奏曲黎明期の創意工夫を垣間見ることができます。

 

今回取り上げるライヒャの曲は、ホルンの用法や転調の仕方が酷かと思うと、今度はスラヴ風の時に激しく、時にのどかな旋律が響くという、19世紀や20世紀の音楽を先取りしたような名曲であることは間違いありません。真摯に、しかし積極的に取り組んでいければと思います。ライヒャがこれだけ壮大なものを求めて書いた曲を演奏できるというのは管楽器奏者として光栄であると共に、作曲者からの期待に応えなければならないという楽譜からの重みに挑まなければならないのですから。

 

(楽譜はhttp://ks.petruccimusiclibrary.org/files/imglnks/usimg/7/7f/IMSLP00079-Beethoven_-_Symphony_No_5_in_C_Minor,_Op_67_-_I_-_Allegro_con_brio.pdf より引用しました)